FC2ブログ

アノマリサの声あそび

しばらく前になりますが、「アノマリサ」のBlu-rayを購入しました。
フレゴリの錯覚を扱った作品で、そのサインとして、物語の主な舞台であるホテルには「フレゴリホテル」という名前がつけられています。

フレゴリの錯覚について、wikiでは「全くの見知らぬ他人を、よく見知った人物と取り違えてしまう現象を言う」とありますが、この映画で扱っているのは、「身近な人も知らない他人も、全員が同じ人物に見える」という現象、正確には「全員の声が同じ、中年男の声に聞える」。 
老若男女すべてが同じ声、それも低く感情の薄いおじさんの声という、憂鬱な世界の中で、ある時、ふいにただ一人だけ、女性の声を発して話すリサという女性に出会う…というのが話のあらすじです。

この「ただ一人特別なリサ」と主人公のおっちゃんがやる、遊戯的な言葉あそびがとても微笑ましくて美しくてねえ。

============

言葉あそびといっても、掛詞になっていたり、韻を踏んだライムがあったりみたいなものではなく、もっと幼児的なもの。
語尾になんとなく「プー」とつけてみたり、
店で飲んだカクテルの名前(だったかな?)の響きが面白いからと、何回も繰り返してみたり。

この声の音の響きそのものを面白がってるようなしぐさが、すごく魅力的に見え、主人公は、リサを部屋にさそい、その後、リサとおっちゃんはなにげない会話から情事にいたるのですが、このシーンでも「もっと話して!」と何度も声を聞きたがります。内容はさほど重要ではなく、言葉を、音をやり取りしていることそのものがうれしいという感じです。
なんとなく連鎖する犬の遠吠えのような、プリミティブな感じは、その後のセックス描写がまるで初めてであるようなぎこちなさ、初々しさをもって描かれるのも手伝って、子供のころの感性に帰ってしまったような印象を与えられてしまう。

そして、その遊戯的なやりとりに、社会性の澱から解放されたような、不思議な開放感があるのです。
子供に戻って、あのころの輝かしく、愛しい瞬間が戻ってきたような感覚が、音遊びを通じてよみがえってくるような感覚といえばいいんでしょうか。

このような音遊びは、監督・脚本のチャーリー・カウフマンが脚本を手がけてた「アダプテーション」でも見られ、こちらでは電話越しにハミングをするシーンがあります。もう4、50のいい歳なのに、電話越しにハミングをしてじゃれあう、人生に倦んだヤク中の男女が音でじゃれあう様は、エロティックでもあり、幼稚でもあり、なにより幸福そうなシーンでした。

「子供のころに戻りたい、でも取り返しはつかない」と、その裏返しの「老いていくことは、生き生きした人生が磨り減っていくこと」という悲壮感はチャーリー・カウフマンが手がけた作品にしばしば見られる主題ですが(一番強く出ているのは多分「アダプテーション」かな)、アノマリサも例外ではなく、そこはかかとなく幼い頃がもっとも人生が美しい時と描き出す瞬間が含まれていて、それが、きれいな声での音あそびです。

幼児的であるために、所詮一夜の夢として結末で奪われる幸福が、いっそう強調されているように感じました。

============

こういう感想に至ったのは、実は、二回目に吹き替えで見た時で、初見では「シネクドキ、ニューヨーク」(邦題がかっこ悪い「脳内ニューヨーク」)のような、バロック的肥大化を繰り返すトンチキな映画を期待していたので、「シンプルすぎて物足りない」と感じていました。
しかし二回目で、この映画の呼吸に慣れると、失われる一夜にペシミスティックな悲しさを感じるようになり、かみ締めがいのある作品として持っていけるようになってきて、現在に至ります。

パペットによる偏執狂じみたストップモーションに見入るのも魅力ですが、声に耳を傾けてみてみるのは、作品により深くダイブできる見方なんじゃないでしょうか。
うーんなんか上手く感想かけなかったなあ。いい映画ですよ。



プロフィール

佐々木バレット

Author:佐々木バレット
佐々木バレットと申します。舟名義で活動することも。
しばらくお休みしていましたが、マンガ活動再開しています。

現在、主にコミックMateで活動中。
またコミックウォーカー上で、舟名義でホラー漫画「カタリベ」の漫画も担当しています。

HPはこちらになります。
You Look'in 華々しき Rock'n Roll WOW!
また、拙著『おさなブライド』は、現在電子書籍版がDMMなどで配信されています。

ご連絡いただく際には、下記あて先の「$」を「@」に置き換えたメールアドレスにお願いいたします。
sasakibullet$mail.goo.ne.jp

最新記事
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
リンク
QRコード
QR